平衡化中性フェノールの調整

平衡化中性フェノール、トリスフェノールとも呼ばれます。

フェノール(wikipedia)は水彩絵具のような臭いのする有機化合物です。

主に実験で用いられるフェノールは非常に純度が高いため、

以下の画像のように無色の結晶です。


wikipediaより転載

分子生物学の実験では、核酸の抽出などに用いられます。

日常生活において現在ではなじみの少ない物質になってしまいましたが、

過去には希釈して使う事で消臭剤や消毒薬として大々的に使われていました。

現在では人体への毒性が認められ、安全性の高いエタノール等が代わりに用いられています。

(フェノールの歴史背景についてはこちらのサイトがわかりやすいです。)

そうした背景からも、フェノールは劇物として分類され毒性と腐食性を持っています。

試薬の調整の際には必ず手袋を着用し、所属する研究室等の取り決めにしたがって使用してください。

皮膚についた場合は薬傷(火傷の一種)を引き起こすので、早急に大量の水で流してください。

今回はDNAの抽出に必要な平衡化中性フェノールの作製方法を示します。

フェノール自体は酸性です。

酸性の条件下だとDNAがフェノールの有機層に分配するため、

これらを防ぐために前段階として中性フェノールにしないといけません。

またフェノールは吸水性のためバッファーで飽和させておく必要があります。

[Materials]

・結晶フェノール (核酸抽出用) MW=94.11  毒物・劇物指定, 腐食性有り

・8-ヒドロキシキノリン (8-キノリノール)  MW = 145.16

・0.5 M, 0.1 M Tris-HCl **(1M Tris-HClの作り方)

0.5 M EDTA(pH 8.0)

平衡化中性フェノールの調整
試薬もしくは溶液 使用量(500 g) 最終濃度
フェノール 500 g
8-ヒドロキシキノリン 0.5 g  0.1 %
0.5 M EDTA(pH 8.0)* 1.2 mL  1 mM
0.5 M Tris-HCl(pH8.0)** 1 L  1 mM
0.1 M Tris-HCl(pH8.0)** 1 L  1 mM

*EDTAは有機層にも水層の両方にとけ込みますので、それを加味しての量になります。
**1M Tris-HClの作製方法を参考に作ってください。0.5MならTrisを1/2量、0.1 Mなら1/10量です。

[Method]

1. 未開封のフェノールの瓶をそのまま50℃の湯浴に入れて溶かす。溶けたら常温まで戻す。

2. フェノールが溶けたら、8-ヒドロキシキノリン(フェノールが酸化するのを防ぐため)を0.5 g加える。

3. 0.5M Tris-HClを500ml加える。

4. きっちりとフタを閉めて5分から10分間激しくシェイクする。

5. 二層に分離するまで放置。

6.  二層に分離した後、上層を水道アスピレーターで除く

7. 手順 3→6の作業を再度行なう

8. 0.1 M Tris-HClを計1Lになるところまで加える

9. 手順4→6を繰り返す

10. 上層を除去し終わった後、フェノール層(下層)をpH試験紙の上に一滴落とす。

11. pH7.8以上になっていれば次の手順へ進む。pH7.8以下のときは手順8→9を繰り返す。

12.  125 mLの0.1 M Tris-HClと1.2 mLの0.5 M EDTAを加える。

13. フタのまわりはパラフィルムで覆っておく。

14. 平衡化した日付を明記した上で4℃にて保存。 (およそ一ヶ月が目安)

上記のプロトコールと異なり、EDTAと一緒に2-メルカプトエタノールを加える方もいます。

その場合は最終濃度が0.2 % になるよう0.5 M EDTAと同様に1.2mL加えましょう。

逆にどちらも加えないMethodもあります。

EDTAはDnaseの活性を抑えるために、メルカプトエタノールは安定剤として入っていると考えられます。

また、購入する会社によってビンをそのまま使うことが難しい可能性もあるかもしれません。

その際には臨機応変にしていただけるといいと思います。ただし、遮光はするようにしましょう。

フェノールを溶かす際には65℃前後が基本です。

しかしながら、本プロトコールでは購入した瓶をそのまま使うため、

割れることがないよう念のため50℃にしております。

溶けにくい場合などは65℃に変更してみてください。

シェイクが苦手な方は参考文献にあげている中性フェノールの平衡化に従って、

三角フラスコ等にうつしてスターラーを使用してもいいかもしれません(ただし、時間がかかります)。

RNase freeのフェノール等を作製したい場合は全て専用のものを使用です。

-20℃で保存すると3ヶ月持つそうです。

これは作製してから時間が経つと酸化がすすみDNAの抽出効率が落ちてくるのではないでしょうか。

人によっては4℃保存で長期間使っている方もいらっしゃるそうです。

瓶のまま-20℃保存するのは危険なので、シェイクして分離する前にチューブなどに分注して保存が良いと思います。

この際、遮光のためアルミホイルで覆うことを忘れないようにしてください。

また保存にあたってはガラスビンまたはポリプロピレンといった耐性のある容器の使用をしてください。

参考文献

 Wikipedia contributors. “フェノール.” Wikipedia. Wikipedia, 19 Feb. 2012. Web. 19 May. 2012.
 中性フェノールの平衡化(京都大学大学院医学研究科付属動物実験施設)
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 世界を変えた化合物(3)・フェノール〜ジョセフ・リスターの奇跡〜(有機化学美術館)
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